遠隔レーザ溶接におけるキーホール動力学とポロシティ形成

遠隔レーザ溶接プロセスのキーホール誘導によるポロシティ形成について、下記の3つのテーマをFLOW-3D WELDを用いた数値シミュレーションで明らかにします。

 

  1. ポロシティ形成を誘導するキーホールのメカニズム
  2. レーザ出力と溶接速度の影響
  3. レーザビームの照射角度の影響

解析条件

母材は商用で広範で使用され、溶接ポロシティの影響を受け易いアルミニウム(AA5182)を用います。

溶接接合_遠隔レーザ溶接_解析条件

解析で用いるメッシュ図

1. ポロシティ形成を誘導するキーホールのメカニズム

右図は溶融池においてキーホール後方の上部表面近傍ならびにキーホールの前方に下向きへの流動が生じている様子を示しています。これは、蒸発反力、表面張力、重力と静水圧が駆動の因子となっています。

強い時計回りの渦がキーホールの後方で生成されているのは、キーホール底部からの後ろ向きの流動と、キーホール後方壁面近傍で生じる下向きへの流動の合流に起因します。溶融領域の上部において僅かに後方へ流動するのは、表面張力の勾配により説明されるMarangoni効果に起因します。表面張力の温度係数の値が小さく、時計回りの渦が強いため、その後方への流動はほとんど抑制されています。

溶接プロセス中、キーホール形状とレーザビームとの相対的な位置に依存して、キーホール壁面の様々な位置にレーザビームが照射され、キーホール壁面上に温度分布が生じます。蒸発反力と表面張力は共に温度に依存しており、表面温度が高ければ、蒸発反力が高く、表面張力が低くなります。結果として、高温領域では低温領域より強い溶融流れが生じます。

溶接接合_遠隔レーザ溶接_キーホール断面の流束場と温度分布

キーホール断面の流速場と温度分布
(P=2.5kW, v=3m/min)

溶接接合_遠隔レーザ溶接_キーホール崩壊による気泡形成プロセス

キーホール崩壊による気泡形成のプロセス(P=2.5kW, v=3m/min)

溶接接合_遠隔レーザ溶接_溶融池後方への気泡輸送プロセス

溶融池後方への気泡輸送プロセス(P=2.5kW, v=3m/min)

上図(左)キーホール崩壊による気泡形成のプロセスの(a)~(d)は、典型的なキーホール変動による気泡の生成例を示しています。(a)ではキーホールが浅く、レーザ照射により底面が非常に高温となり、下向きの大きな蒸発反力から(b)のように深いキーホールが生じます。ここでキーホールの下後部の温度が高いため、蒸発反力が生じ、下部の溶融金属を後方に押しやることで渦が出来ます。(c)の状態に進むと溶融金属の渦流れは加速し、不安定になります。強い時計回りの渦流れにより、キーホール上後部の溶融金属がキーホール前方へと流れ込み、(d)のようにキーホールが崩壊します。その際、トラップされたガスにより気泡が生じています。

また、上図(右)溶融池後方への気泡輸送プロセスの(a)~(i)は生じた気泡が溶融池の後方に流れていく過程です。渦とキーホール近傍の流れとの合流によって、気泡は徐々に後方に押し流されていきます。気泡が下後方向に流れると初期凝固部分に捕らわれやすく、ポロシティになります。上図(e)では2番目の気泡が生じていますが、図(f)~(h)のように再発したキーホールに捕らわれ、ポロシティ生成には繋がっていません。

まとめると、強い溶融流動によるキーホール崩壊は初期のポロシティ形成の原因となりますが、キーホールの再発や気泡が自由表面へ流動して解放されるように、必ずしもポロシティを誘導するとは限りません。しかし気泡がキーホール底部から強い渦流れにより溶融池の下後部へ移送される場合は、アルミニウムなど高い熱伝導率によって凝固面が速く移動するために、凝固面によって捕獲される危険性が非常に高くなります。

また溶融時のアルミニウムは渦流れが強いこともあり、溶融池の底部後方に居座っている気泡が大気解放されることは、ほぼ不可能です。気泡が凝固面によって捕らわれると、ポロシティが形成されます。

2. レーザ出力と溶接速度の影響

一般的に溶接速度のみ大きくする場合、ポロシティ形成は結合部で減少します。これは、溶接速度の上昇により母材内の溶け込みが減少し、キーホールが浅くなってキーホールが安定するからです。しかし、適切な溶け込みは結合強度に不可欠です。そのため、ポロシティ形成のプロセスにおけるパラメータの影響調査において、溶接速度と共にレーザ出力を大きくすることで、全てのケースで同程度の溶け込み深さを保持しました。

実験による縦断面のポロシティ分布と、FLOW-3D WELDによる解析結果を示します。3ケースとも同程度の溶け込み深さをもたらし、解析結果は実験と非常に良く一致しています。

溶接接合_遠隔レーザ溶接_レーザ週間と溶接速度
溶接接合_遠隔レーザ溶接_実験による長手方向断面のポロシティ分布

実験による長手方向断面のポロシティ分布:
(a) P=2.5kW, v=3m/min; (b) P=5.0kW, v=10m/min;
(c) P=6.0kW, v=12m/min

溶接接合_遠隔レーザ溶接_FLOW-3D_WLDによる長手方向断面のポロシティ分布

FLOW-3D WELDによる長手方向断面のポロシティ分布:
(a) P=2.5kW, v=3m/min; (b) P=5.0kW, v=10m/min;
(c) P=6.0kW, v=12m/min

右図(左)のグラフは、溶接速度やレーザ出力を様々に組み合わせた各ケースのポロシティ面積比を示します。溶接速度とレーザ出力を大きくすることでポロシティの生成が著しく抑制されることがよく分かります。

右図(右)のグラフは、キーホールの深さ(a)と幅(b)を示します。キーホール幅の折れ線は、レーザの高出力・高速移動がキーホールの大きな開口をもたらし、キーホール崩壊を抑制することを示しています。またキーホール深さの折れ線は、レーザの高出力・高速移動が深さの変動をより小さくすることで、キーホールの安定性に繋がることを示しています。

溶接接合_遠隔レーザ溶接_レーザ出力と溶接速度によるポロシティ面積比

レーザ出力と溶接速度による
ポロシティ面積比

溶接接合_遠隔レーザ溶接_キーホール深さと幅の発生曲線

キーホールの深さ(a)と幅(b)の発生曲線

右図は、低速(a)と高速(b)の両ケースにおいて予測された溶融池の温度分布と流速ベクトルを示します。レーザの低出力・低速移動のケースに比べ、レーザの高出力・高速移動のケースはキーホール後方に非常に長い溶融池を形成します。長大な溶融池は気泡を大気に逃がすことに有利に働き、大きな運動量を持つためキーホール壁面の遮断力に負けずに乱流はほとんど発生しません。また、穏やかな流れにより溶融流動の熱損失も抑制され、大きな溶融池が保たれています。

また、キーホール壁面に対するレーザの照射位置も溶融流動に大きく影響します。高速移動時にはレーザビームは主にキーホールの前方壁に照射され、蒸発反力が主に前方壁にかかるため、後方の溶融池の流動には大きな乱流が生じず、前方壁が前進していきます。一方、低出力・低速移動時にはレーザビームは前方壁、後方壁の双方に照射されます。後方壁への照射は、後方の溶融池の乱流を悪化させ、キーホールが不安定になって崩壊することで気泡が生成されます。

溶接接合_遠隔レーザ溶接_解析結果

解析結果(流速場・温度分布)とレーザ位置:
(a)P=2.5kW, v=3m/min; (b) P=6.0kW, v=12m/min

3. レーザビームの照射角度の影響

レーザビームの照射角度はレーザ溶接においてもう一つの重要なパラメータであり、キーホールの姿勢、動力学とポロシティ形成に影響します。以下は、照射角度を変えた実験と解析を行っています。

溶接接合_遠隔レーザ溶接_照射角度条件

グラフに照射角度に対する気泡面積率の実験結果と解析結果を示します。両結果ともにポロシティが照射角度の上昇と共に抑制されていることが分かります。照射角度が大きい実験結果で多くのポロシティが確認されるのは、実験上の制限から照射角度を大きくするとレーザビームの焦点位置が溶接中に著しくずれてしまい、レーザによるエネルギの変化が溶け込みの変化に反映され、キーホールの挙動の不安定性、しいてはキーホール崩壊に繋がったためです。それを除けば実験と解析は傾向としてよく一致しています。

溶接接合_遠隔レーザ溶接_気泡面積率

気泡面積率:(a) 実験結果; (b)FLOW-3D WELD による結果

溶接接合_遠隔レーザ溶接_FLOW-3D_WELDによる溶接断面のポロシティ分布

FLOW-3D WELDによる溶接断面のポロシティ分布:
(a) 2.5kW, 3m/min, -15°; (b) 2.5kW, 3m/min, 0°;
(c) 2.5kW, 3m/min, 15°; (d) 3kW, 3m/min, 30°;
(e) 3kW, 3m/min, 45°

溶接接合_遠隔レーザ溶接_FLOW-3D_WELDによる解析結果とレーザ照射角度

FLOW-3D WELDによる解析結果(流速場・温度分布)と
レーザの照射角度:(a) 2.5kW, 3m/min, 15°;
(b) 3kW, 3m/min, 30°; (c) 3kW, 3m/min, 45°

上図(左)に溶接断面のポロシティ分布を示します。角度の増大によりポロシティが明確に減少していることが分かります。

上図(右)に溶融池内の温度分布と流速ベクトルを示します。この結果からレーザビームの照射角度はキーホールの姿勢を決定し、後方の溶融池と溶融流動に影響していることが分かります。レーザの照射角度が小さい場合、動的蒸発反力と重力の向きが異なり、溶融金属がさまざまな方向に移動して強い渦流が発生し、キーホールが崩壊しやすくなります。 レーザの照射角度が大きい場合、動的蒸発反力と重力の向きが同様であり、溶融金属が同様の方向に移動し、層流が発生して、キーホールの崩壊を防ぎます。

まとめ

1. 溶接プロセスでのポロシティ形成には、図に示す3つのステップがあると推論できます。

溶接接合_遠隔レーザ溶接_ポロシティ形成に必要な3ステップ

2. 高出力・高速移動ではキーホールの開口部は大きく、深さの変動はほとんどありません。 レーザビームは主に前方のキーホール壁に照射されます。キーホールの背後にある溶融池は長くて大きく、流動は穏やかです。それがキーホールの開口を保ち後方の溶融池に気泡が流れるのを防ぎ、気泡が大気開放される時間を与えるのに非常に役立ちます。 これらの機能はすべて、ステップ1、ステップ2、およびステップ3の発生を抑制します。

3.低出力・低速移動では、キーホールの開口部は比較的小さく、キーホールの深さは崩壊により大きく変動します。キーホール後方の溶融池は小さく、乱流があります。 レーザビームは前面と背面の両方のキーホール壁に照射されます。後方のキーホール壁へのレーザ照射は、溶融池の乱流を悪化させます。これらの機能はすべて、ステップ1、ステップ2、およびステップ3の発生を促進します。

4.レーザビームの照射角度の影響を調査した結果、大きな照射角度では、蒸発反力や重力が同一の方向に沿って働くために溶融池の後方で層流になり、前方のキーホール壁面はレーザビームにより開口することが確認されました。これらの特性がステップ1、ステップ2の発生を抑制し、結果としてポロシティ形成を抑制することが分かりました。

【参考文献】

Runqi Lin, Hui-ping Wang, Fenggui Lu, Joshua Solomon, Blair E. Carlson, Numerical study of keyhole dynamics and keyhole-induced porosity formation in remote laser welding of Al alloys, International Journal of Heat and Mass Transfer 108 (2017) 244–256, Available online December 2016.